隠岐の島

 島に降り立った瞬間——空気の重みがふっと変わるのを感じるはずです。隠岐は、地球が46億年かけて綴ってきた分厚い物語が、そのまま大地として横たわる場所。切り立った摩天崖に立てば、眼下に広がるのは、地質学的には「ついさっき」という時間軸で刻まれた絶景。気の遠くなるような時間のスケールを前にすると、日々抱えている悩みの小ささに、思わず肩の力が抜けてしまうかもしれません。
 隠岐の島は、日本の国家が形成された時以前から明らかに存在していた人の営みを感じることのできる不思議な、そして魅力的な場所です。島のあちこちに息づく150を超える神社の中には、社殿すら持たず、巨木や巨岩をそのまま御神体とする素朴なものもあります。静まり返った杜で手を合わせた瞬間、言葉にならない何かに、そっと見守られているような不思議な安心感に包まれます。そしてまた、隠岐の島(中ノ島)は、後鳥羽上皇が19年もの間、都を想い続けた配流の地でもあります。かつて帝王が口にした望郷の歌をなぞりながら歩けば、孤独と誇りが同居したその心に、少しだけ触れられたような気がしてきます——日が沈み、満天の星が頭上に降りてくる頃、ここが「日本のはじまりのはじまり」と呼ばれる理由が、静かに胸に落ちてくるはずです

出雲

 出雲大社の大鳥居をくぐり、長い参道を進んでいくと、空気がふっと張り詰めるのを感じるでしょう。ここは、国を譲るという大きな決断をした神・大国主命が、その見返りとして「天まで届くほど高い御殿を」と望み、建てられた場所。高さ約24m、見上げるほどに大きな御本殿の前に立てば、一人の神がかけた途方もない願いのスケールに、思わず息を呑みます。
 幾多の試練を乗り越え、人々に豊かな国を授けた大国主命は、戦って勝つのではなく、潔く譲ることで永遠の信仰を手にしました。その懐の深さに触れるとき、本当の強さとは何かを、静かに問い直されるような気持ちになります。旧暦10月、全国の神々がこの地に集うといわれる「神在月」の出雲。隠岐の島々で出会ってきた八百万の神々の物語が、この一つの社でひとつに結ばれていく——その瞬間を目の当たりにすれば、争わずして受け継がれてきたこの国のかたちそのものに、きっと心を奪われることでしょう。

厳島

 潮の匂いを感じながら大鳥居へと近づいていくと、海と空、そして朱色の社殿が溶け合う光景に、思わず言葉を失います。満潮の折には、社殿がまるで海面にそっと浮かんでいるかのような幻想的な姿を見せる厳島神社。
 平清盛がこの地に託した篤い信仰のかたちを、800年以上という気の遠くなる時を超えて、今まさに自分の目で見ているという事実に、静かな感動がじわりと込み上げてきます。干潮時には、普段は海中に立つ大鳥居の足元まで歩いて近づくことができ、潮の満ち引きで、まったく異なる物語を見せてくれます。
 隠岐の雄大な大自然の絶景から始まり、出雲の神話を経て、この穏やかな厳島の海景に辿り着いたとき、旅そのものが一つの物語であったことに、きっと気づかされるはずです。

隠岐の島で出会う1日だけの特別な名古屋・四間道レストラン
MATSUURA

 寛永期に建てられた油問屋の土蔵をそのまま活かした店内で、名古屋のフレンチ界を牽引する松浦シェフが目指すのは、地元の恵みをまっすぐに活かすフランス料理。三河湾で揚がる魚介や地元農家が育てる旬の野菜を主役に、素材そのものの色と香りを引き出すことを何より大切にしています。 シェフのスペシャリテは、月替わりで表情を変える「テリーヌ」。断面に旬の彩りを閉じ込めたその一皿は、一枚の絵画のような美しさをたたえ、確かな技術と豊かな感性が息づく、松浦オーナーシェフの料理観を象徴する存在となっています。 落ち着いた蔵の空間にしつらえた個室は接待や会食、披露宴にも用いられ、著名なワイン生産者を招いたディナーイベントも定期的に開催。同業のシェフたちからも「一度は訪れたい店」として推薦されるなど、料理人からの信頼も厚い一軒です。今回の旅では、2日目のLunchは息をのむ知夫の海の絶景を眼下に、松浦オーナーシェフが隠岐の大自然の恵みを贅沢に使った記憶に残る特別なDéjeuner en plein air(デジュネ アン プレネール=青空の下での昼食)をプロデュース。この日限りで創造される、一瞬の奇跡を皆様にお届け致します。

庭園の宿 石亭

 庭園の宿 石亭は、宮島を対岸に臨む高台に佇む宿です。「ミシュランキー ホテルセレクション2026」で2ミシュランキーを獲得しました。約1,500坪もの広大な庭園は、単なる庭ではなくひとつの作品です。樹々の間を吹き抜ける風、遠くに輝く瀬戸内海、刻々と表情を変える景色が、訪れる人を静かな時間へと誘います。日が落ちるころには庭に篝火が灯され、静寂と温もりに包まれた幻想的な風景が、明るい昼の庭園とはまるで別世界を描き出します。 庭園を抜けた先には、遊び心あふれる隠し部屋のような客室が待っています。お部屋でゆっくりとくつろぐのも、温泉に身を委ねるのも思いのままです。館内には同じ意匠の客室がひとつとしてなく、それぞれが独立した世界観を持っています。調度品や器、美術品の細部に至るまで亭主の美意識が息づき、まるで図書館や美術館に滞在しているかのようなひとときをお楽しみいただけます。すべてのお部屋に共通するコンセプトは「音楽」「本」「チェア」です。 ご到着後の庭園散策のあとには、ラウンジでウェルカムドリンクをどうぞ。お食事のあとや、朝の温泉、散策のあとにも、ぜひお立ち寄りください。 ご夕食は、瀬戸内海の海の幸と山の恵みを取り入れた月替わりの会席料理です。味わいはもちろん、器や盛り付けに至るまで、すべてがひとつの作品として仕上げられています。献立を手に、次の一品への期待を膨らませながら席に着けば、運ばれてくるお料理は想像を超える芸術のようです。料理を待つ時間さえ愛しく感じられる、石亭ならではの特別な食体験となるでしょう。 旅の最後は、「何もしない時間」を愉しむ宿・石亭で。庭を眺めながら湯に身を委ね、日本創生叙事詩の旅を思い返せば、至福のひとときとなることを願っております。